その占い師の先生のことは、最初、知人から聞きました。どこかの占いの店に所属しているわけではなく、自宅でひっそりと鑑定されています。広告なども出されていないので、鑑定を依頼する人は、本当に口コミだけで足を運んでくるとか。
教えてくれた知人が言うには、次から次へと相談者が殺到していることもあり、先生はいつも忙しく、なかなか予約が取れない、と。しかも、不思議なことに、ささいな悩みを相談しようとする依頼者はほとんど予約が取れないのに、本当に困っている人の場合は、先生がそれを知らずとも、自然にタイミングよくスムーズに占ってもらえるそうです。
占い好きの私はよく当たると聞いて、さっそく対面占いを申し込もうと電話を入れたのですが、電話口に出た先生はひと言「当分、忙しくて無理です」とおっしゃいました。女性らしいツヤのある声でした。そのときの私は、特に大きな悩みはなく、「なんとなく先のことを占ってほしい」程度でした。『残念だな』と思い、電話を切りました。1か月後にまた電話をしてみましたが、同じ返答です。
それから半年後のことです。付き合っている彼氏が二股をかけていたことが発覚し、どうしたらよいのかわからず、今度こそ先生に占っていただきたいと思いました。真剣な思いで電話をかけましたが、やはり「忙しい」という返答でした。『縁がないのかなあ』とつくづく思いましたね。
しかし、それからまた半年後のことです。例の彼氏とはもう別れてスッキリしていたのですが、今度は職場の人間関係に悩んでボロボロになっていました。食欲も落ちて、見るからにゲッソリとした私を友だちが心配するほどでした。家でずっと悩みながら、ふと、先生のことを思い出し、ダメ元で電話をしてみたのです。すると、「では来週、お越しください」とすんなり予約が入りました。ウソのようだと思いました。
当日、関西のはずれにある最寄りの駅からタクシーに乗車し、先生の御宅に向かいました。先生は思っていたよりも年配の女性でした。私の生年月日を聞いた後、紙に書き留めて、少し目を閉じて念ずるような仕草をして、占ってくれました。「今の職場はやはり環境がよくない、近いうちに転職のチャンスが訪れるからそれを逃さないように。昔からの友だちが助けてくれます」とアドバイスをしてくれました。そして、さらに家族のことについても注意してくれたのです。「来年、家族の誰かが病気を患うから気をつけて」とおっしゃいました。仕事の悩みを相談しに行ったのに、家族の話が出てきて驚きましたが、それがまた当たったのです。
翌年、家族が重い病気にかかり、私は介護生活に突入。転職した職場がいいところだったので、無事に乗り切れましたが、今振り返ると、けっこう大変な日々でした。「先生がおっしゃったことは、どれも当たっている」と思いました。
けれど、そのような「スゴイ」先生だからこそ、生半可な悩みを相談するべきではありません。本当に困っている人たちが優先されるのだと理解しました。私もまた、本当にどうしようもなく身動きが取れなくなったら先生に助けていただこうと思います。それまでは自分自身で精一杯の努力をするつもりです。